ずっと、ずぅっとむかしのことです。
ひとりの人間が、不思議な夢をみました。
暗い昏い道を、ぱたぱたと走る足音。
青い蒼い宝石の、ちいさな部屋を照らす輝き。
赤い紅い炎が、町を焼き尽くす熱気。
それは、語り部と呼ばれた人間の夢でした。
それは、御標と呼ばれるものでした。
それは、百年以上も先の未来のためのものでした。
人間は、その悲しい結末を、壁画に残しました。
それが神によるものか、異端によるものか、知る人はもう残っていません。
御標の存在すら、長い永い時を経て、忘れ去られてしまいました。
けれどもそれは、紛うことなき御標でしたから。
たとえヒトの記憶から消え去っても、演者たちを呼び寄せる力を持っていたのです。