美食の町ミズガルの片隅に、ひとりの人間が営む食堂がありました。
店は小さく、料理も特別なものではありませんでした。けれども、あたたかな家を思い出させる料理はひっそりと人気を集め、冒険者たちの間では「隠れた名店」として囁かれることもありました。
7日に1回の定休日を除き毎日開いていたその店ですが、ある日、臨時休業の看板を扉にかけました。突然のそれはひと月ほど続き、その間、窓も扉も、ぴたりと閉じたままでした。
しばらくして、店に主が戻ってきました。久しぶりに開いた扉には、こんな張り紙が貼られていました――
『6日後、閉店することになりました。
長らくのご愛顧、ありがとうございました。』
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張り紙が貼られた翌日のことです。長らく食材を届けていた冒険者が店を訪れました。
店の常連でもあったその冒険者は、いつもの席に着くと店主に話しかけました。
「姐さんの店がなくなるなんて寂しくなるなぁ。別の店に行くんだろ?この店はどうするんだ?」
「ずいぶん長い間、世話になった店だし……そのまま廃らせるのもとは思ってるんだけどねぇ」
「姐さんの知り合いに使ってくれる人は?」
「親戚連中はみんな働いてるし、仕事を辞めて、ってわけにもいかないだろ?それに、どうせなら食堂としてまた利用してもらいたいんだけど……。そういうアンタの知り合いはどうだい?」